公益社団法人 日本船舶海洋工学会が授賞するシップ・オブ・ザ・イヤーは、毎年日本で建造された話題の船舶の中から、技術的・芸術的・社会的に優れた船を選考して与えられるもので、35回目となる今年は合計9隻が選考の対象となりました。
シップ・オブ・ザ・イヤー2024の応募作品発表会と選考委員会は、去る5月16日に開催され、「シップ・オブ・ザ・イヤー2024」には、水素燃料電池、リチウムイオン電池、およびバイオディーゼル燃料から動作モードを選択して航行できる世界でも例のないシステムを搭載した船舶である「HANARIA」が選ばれました。また、世界初の商用アンモニア燃料船である「魁(さきがけ)」が技術特別賞を受賞しました。
各部門賞には、「まほろば」(小型客船部門)、「下北丸」(小型貨物船部門)、「関鯨丸」(漁船・調査船部門)がそれぞれ選ばれました。
授賞式は、日本マリンエンジニアリング学会および日本航海学会の表彰と共に、海事三学会合同表彰式として7月18日に海運クラブにおいて執り行われます。
今回は9隻の応募船があり、船舶技術者からなる予備審査委員会で主に技術的な評価が行われ、全船が5月16日に開催された選考委員会に提案され、各応募船のプレゼンテーションが13時から始まり17時に終了した。
17時から、別室にて12名の全選考委員出席のもと選考委員会が始まった。まず、選考委員の疑問点に関する質問、自由ディスカッションが約10分間行われた。その後、各委員が順番に1~2隻をシップ・オブ・ザ・イヤー候補として理由も述べながら挙げた。
その結果、「HANARIA」が9票、「魁(さきがけ)」が5票、「まほろば」が3票、「下北丸」と「SORAKAZE」が各2票を得た。その後、「HANARIA」をシップ・オブ・ザ・イヤーに選定することの是非についての議論を行い、全会一致で同船に授与することを決めた。同船は、次世代の船舶燃料としてみなされている水素を燃料とした燃料電池によって電気を起こし、さらにバッテリー、バイオ燃料エンジンも搭載した野心的な小型客船として高い評価となった。また、旅客を乗せる客船である点が、社会に船の重要性を広くアピールするのに役立つとされた。
続いて、小型客船の部の選考を行った。4隻の応募船のうち「HANARIA」を除く3隻について意見交換の後、「まほろば」に全会一致で小型客船部門賞を授与することを決めた。「HANARIA」と同様に水素を燃料とした燃料電池により発電する船であり、ユニークな外観と、大阪・関西万博への交通船として使用され船舶の新しい技術を社会に広く発信していることも評価された。
小型貨物船の部では、「下北丸」に部門賞を授与することを決めた。内航の石灰石運搬船として日夜活躍しているという社会的役割を評価する声があり、またLNG燃料のガスエンジン、軸発電機、大容量バッテリーを搭載して、港湾内ゼロエミッションを実現したこと、荒い海域における出力変動をバッテリーの活用によってエンジンの稼動を平滑化させて燃費を30%余り削減していること、さらに船員の働きやすい船に仕上げたことも高く評価された。
漁船・調査船部門では、新しい捕鯨母船「関鯨丸」に部門賞を授与することにした。世界で稼働する唯一の捕鯨母船であり、船内に解体・加工工場を配置した近代的な大型漁船に仕上げたことが高く評価された。
作業船・特殊船部門では、アンモニア燃料タグボートの「魁」が、水素とならんで次世代の船舶燃料の有力候補であるアンモニアを使い、安全に運航できることを実証したことが高く評価された。なお、予備審査委員会から同船を「技術特別賞」に推薦する旨が学会事務局より報告され、同船については「技術特別賞」を授与することが全会一致で了承された。
なお、選考委員会では、今回の応募船舶の中にあった改造船についての意見交換があり、持続可能性という観点から、大規模な改造をして新たな役割を船舶に与えることの意義をシップ・オブ・ザ・イヤーとしては大事にすべきとの意見が大勢であった。
また、今回は大型船の応募がなかったが、大きな船舶に対する憧れは強いことから、次回以降の大型船の応募に期待するとの意見も出された。
選考委員長 池田 良穂
内航船のカーボンニュートラル化に貢献するための、ゼロエミッション船の先駆けとなる日本初の旅客船である。水素燃料電池、リチウムイオン電池、バイオディーゼル燃料から動作モードを選択して航行できる世界でも例のないシステムを搭載した船舶であり、旧来の化石燃料船と比較してCO₂排出量の53~100%削減を実現。低・脱炭素化社会の実現に貢献する。
アンモニア燃料タグボート「魁」の開発は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のグリーンイノベーション基金(GI基金)事業に公募採択をされ、当社、IHI原動機及び協力機関としての日本海事協会の3者で進めてきた。2024年8月に世界初の商用アンモニア燃料船として竣工後、東京湾を中心に曳航作業に従事しており、燃料アンモニアの社会実装の先駆けとして活躍をしている。
なお、本船は2015年8月31日に日本初のLNG燃料船として竣工し、同年のシップ・オブ・ザ・イヤー 技術特別賞に選ばれた曳船(タグボート)に、主機をアンモニア焚きデュアルフューエル機関にする等の改造を施したものである。
2021年に新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成を受け開発した純水素燃料電気旅客船である。従来の内燃機関船と違い、走行時にCO₂や環境負荷物質を排出しない水素燃料電池を使用したゼロエミッション船であり、高い環境性能に加え、においがなく、騒音・振動の少ない優れた快適性を有している。
2025年大阪・関西万博にて商用運航を予定しており、多くの方々に脱炭素社会における水素の可能性を感じて頂ける。
ガス専焼エンジンを主機とし、バッテリー、軸発電機兼推進電動機を搭載したハイブリッド推進システムをばら積船として世界初採用。通常運航時、重油は一切使用せずにLNGのみで推進力と船内電力を賄い、船舶燃料の脱重油化といち早く実現した。主機負荷を一定とし、悪海象による推進力変動をバッテリーで吸収する負荷変動抑制制御を実装し、津軽海峡でも安定したガスエンジン運航を可能とした。従来船からCO₂排出量を30%程度低減する等、高い環境性能での営業運転を継続している。
30年以上にわたって我が国の捕鯨を支えてきた捕鯨母船「日新丸」の代船「関鯨丸」が新たに建造された。電動推進システム採用により環境へ対応し、大型工場設備を船内に設置することより衛生環境を改善した。
捕鯨漁団の司令塔として最新設備で鯨目掛けて推進し、「解剖・加工・出荷」という工場設備も兼ね備えた、まさに次世代を象徴する船舶となっている。